●出版翻訳家は割に合う仕事か 割に合うか否かとは、得られるものが自分が費やした時間や労力に対して満足のいくものか否かということです。 この「得られるもの」には、経済的な面と精神的な面があります。それを別々に見ていきましょう。 まずは、経済的な側面だけを見ていきましょう。 出版翻訳家がいくらのお金が貰えるかに関しては「翻訳家の収入」でお話ししたとおりです。 1冊訳して30万円のときもあれば、1000万円以上になることもあり、まさにピンからキリまでです。 しかし、出版不況と言われている昨今では増刷になる可能性も低く、初版印税だけで終わるケースが多いことからも、1冊当たり30万円〜70万円くらいのところに落ち着くケースが多いと思います。 では、この金額を稼ぐのにどれくらいの日数がかかるでしょうか。 一般的に言えば、原書が薄ければ薄いほど訳す英文も少なくなりますので、それだけ労働時間も少なくてすみます。 逆に、厚ければ厚いほど訳す英文は多くなりますので、それだけ労働時間も多くなります。 ただし、薄い本であっても、専門性の高い本だと、調べるのに時間がかかりますし、逆に、厚い本であっても、易しい英語で書かれた本だと、すらすら訳せることもあります。 平均的な翻訳家の場合、薄い本の場合、フルタイムで働いたとして2〜3ヶ月くらいかかるでしょう。厚い本の場合は、厚さにもよりますが、6〜8ヶ月くらいかかるということもあります。 翻訳以外に仕事を持っている人がパートタイムで取り組むとなると、その倍の時間がかかってもおかしくありません。 私自身の経験から言えば、平均的な厚さの本だとフルタイムで取り組んで3〜4ヶ月くらいで翻訳し、(印税契約の場合だと)その初版印税が40〜70万円くらいのことが多いです。 そして増刷にならなかったとすれば、1ヶ月当たりの金額としては、10〜20万円くらいということになります。 これを聞いて、「出版翻訳家って、それほどひどくはないんだ。好きな仕事をして月10〜20万円くらいにでもなるのなら、ぜひやってみたい。仮に、もし自分の訳書がベストセラーにでもなってくれれば、そのときは大きなお金が入るんだし…。それまでは足りない分は節約するなり、アルバイトするなりでなんとかする」と、むしろ勇気が湧いた人もいるかもしれません。 しかし、気をつけていただきたいことは、自分の思うように次から次へととぎれることなく仕事が入ってくるとは限らないということです。 例えば、1冊訳すのにフルタイムで取り組んで4ヶ月かかり、その初版印税として60万円貰ったとします。 すると月15万円ということになります。 そこまではいいのですが、では、その本を訳し終えたときに、次に訳す本が決まっているかといえば、もちろん、自動的に決まるわけはありません。 次に訳す本が決まらないまま、あれよあれよと1ヶ月2ヶ月…と過ぎていくと、その間は収入にはなりません。 ですから、次々とスケジュールがとぎれることなく出版翻訳の仕事を入れたければ、本を訳している最中に、次に訳す本、次の次に訳す本…と自分から出版社に売り込むなどして、仕事を取ってこなければならなくなります。 以上のことを総合的に考えてみると、「1冊だけ訳してみたかった」というような人は別として、職業として出版翻訳家になりたいという人は、生半可な気持ちではなれないということが言えます。 |
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