リーディングというお仕事 

 出版翻訳家または出版翻訳家の卵は、出版社からリーディングという仕事を依頼されることがあります。
 リーディングの仕事とは、出版社が出版化しようとしている外国語の書籍を読んで概要(サマリーとかシノプシスということもあります)を作成するという仕事です。
 このリーディングの仕事に対して、対価を払う出版社もあれば、一切払わない出版社もあります。

(1)対価を払わない出版社
 対価を払わない出版社の人間からすれば、「出すか出さないかもまだ決まっていない書籍」に経費をかけたくないわけです。ですから、できればタダでリーディングをやってほしいと考えるわけですね。
 彼らの言い分としては、「もし出版することに決定したら、その本を自分が訳すことになるのだから、読むこと自体、無駄にはならないではないか」というものでしょう。
 しかし、実際、リーディングをやっても、企画がボツになることもあります。
 というより、ボツになることのほうが多いです。
 ボツなると、リーディングに費やした時間はただ働きだったということになります。
 ひどい場合は、ボツが5冊、6冊…と続くこともあります。そうなっても、ただで引き受けたら最後、何冊ボツが続いても払ってはくれません。

(2)対価を払う出版社
 一方で、リーディングの仕事に対してきちんと対価を支払ってくれる良心的な出版社もあります。
 出版社によってまちまちですが1冊当たりのリーディングの対価は1万5000円から3万円程度です。
 私の経験から言えば、払ってくれるところのほうが多いですが、払ってくれないところもあります。
 普段は払ってくれなさそうなところでも、事前にリーディングの対価について尋ねれば、払うことに了承してくれたところもあります。一方で、何を言っても払ってくれないところもありました(そういう出版社とはつきあい方を考えたほうがいいでしょうね)。
 出版社の人は、「翻訳家なんだから、英語の本でもスラスラ読めるだろう」と思っているのでしょうが、実際、1冊の本を読んで概要を書き上げようと思えば、さささっと斜め読みしたとしても、少なくとも20時間以上はかかります。本当なら、じっくり読んでから概要を書いたほうがいいのでしょうが、そうするととんでもなく時間がかかるので、さささっと斜め読みをしますが、それでもけっこう時間はかかるものです。

 そういうことを考えると、やはり、リーディングの対価は払ってもらうべきだと思います。
 というのも、翻訳家のみながみな、リーディングを無報酬でやっていると、「リーディングはただでやるのがあたりまえ」という不文律ができあがってしまうし、そうなると、将来の翻訳家が苦労するからです。
 
 結論として、リーディングの対価は支払ってもらうよう働きかけるべきだと思いますし、最悪でも、「企画がボツになった場合だけでも払ってほしい」と要求すべきだと思いますね。最低でも数十時間を費やすのですから。