出版翻訳家になるにはどのていどの英語力が必要か

 出版翻訳家になるためにはどのていどの英語力が必要なのでしょうか。

 もちろん、英語力は高ければ高いほど望ましいことはいうまでもありません。

 スピーキング、ライティング、リーディング、リスニングと、さまざまな英語能力の中でも、もっとも必要とされるのは英文読解力(リーディング)ですが、スピーキングもリスニングもできるに越したことはありません。

 私の率直な感想としては、出版翻訳家になれる最低の英語能力のラインは、TOEICで言えば、900点くらいではないかと思います。(注、翻訳の能力がTOEICの点数で正確に測れるわけではありませんが、TOEICが日本国内で非常に人気のある資格であることから、分かりやすいようにあくまで一つの目安としてTOEICを引き合いに出しています。もちろん、TOEICの点数が低くても翻訳の能力の高い人はいるでしょうし、点数が高くても翻訳の能力の低い人もいるでしょう)。

 ただし、誤解しないでほしいことは、900点以上あれば出版翻訳家としての英語力として十分かといえば、けっしてそんなことはないということです。

 たとえ900点以上を出したとしても、まだまだ勉強することは山のようにあります。

 900点というのは、あくまでスタート地点で「出版翻訳家を目指すにはそれくらいは最低あったほうがいい」という最低ラインにしかすぎません。

 出版翻訳家になった後も、常に英文読解力に磨きをかけ続けるつけなければなりません。

 というのも、たいていどんな本を訳すにせよ、1冊の本をすみからすみまで訳していると、必ずといっていいほどきわめて難解な英文にぶちあたるからです。

 翻訳出版するとなると、そのすべてを的確に解釈しなければならないわけですから、こと英文読解に関しては「ここまでで十分だ」という線はないと言えます。

 私は「TOEIC900点が最低ライン」とは言いましたが、今、仮にTOEICの点数が低くても、出版翻訳家になるという夢を諦める必要はありません。実は、私が翻訳家になろうと決心したときの点数は520点でした。

 その後、4年間、必死に勉強して900点まで伸ばしました。留学しなくても900点までなら伸ばすことはできます。
 
 さて、出版翻訳家になるスタート地点の英語力の目安についてお話ししましたが、実は、出版翻訳家になるには、英語力、日本語力、翻訳の技術の3つともが同じくらい重要であり、英語力だけが飛び抜けてあったとしても、日本語力や翻訳の技術がなければつとまりません。

 ちょうど、プロ野球の選手として活躍しようと思えば、走・攻・守の三拍子がそろっていたほうがいいのと同じです。

 では、日本語力や翻訳の技術はどのていど必要なのでしょうか。

 これは何を基準にして答えればいいのかが簡単には見つからないので答えにくいのですが、個人差はあるでしょうが、独り立ちしようと思えば、少なくとも3年〜5年くらいは、どこかで修行を積まなければならないでしょう。

 例えば、翻訳の通信教育を受けたり、翻訳学校に通ったり、あるいは、実務で翻訳を経験したり…などです。

 私の個人的な経験をお話しすれば、翻訳の通信教育を3年間、実務で翻訳を4〜5年間経験した後に、34歳で出版翻訳家デビューを果たし、その後の約10年近くで約30冊もの翻訳書を出版するに至りました。