出版翻訳家になるには
 
 産業翻訳家と出版翻訳家とでは、出版翻訳家のほうが、なるのが難しそうなイメージをもっている人が多いのではないでしょうか。
 
 私がそう思うのも、産業翻訳家の場合は企業等が広告を出して公募していることがよくありますが、出版翻訳家の場合、出版社が公募することはまずないからです。

 したがって、一般の人が出版翻訳家になろうと思ってもアプローチのしかた自体が分からないため、なるのが難しそうなイメージがあるのではないかと思うのです。

 私の大学院時代の友人で某大学の講師だった人は、まだ翻訳書を出したことがなく、英語を教えている関係上、一冊くらいは翻訳書を出してみたいと思っていました。

 ところが、彼女は自分が一人で出版社に売り込んだところで話すら聞いてもらえないものと勝手に決めつけていました。それで、翻訳書を出版するには、同じ大学に勤務する先生で出版社にコネのある人にでも推薦状を書いてもらうしかないと考えていたようです。

 私には、誰かに推薦状を書いてもらったという経験がないため、それがどの程度効果があるのかは知るよしもありません。まあ、まったく効果がないとは思いませんけれど…。ただ、推薦状がなければ出版翻訳家になれないということはありません。

 では、一般の人が出版翻訳家になる最初の一歩は何でしょうか。

 方法はいろいろあると思います。

 出版社にコネのある人がいれば、その人に推薦状を書いてもらうのも一つの手ですが、そのような人がいない人は別の方法を考えましょう。

 一つは、翻訳のコンテストで賞を取ることです。賞はセールスポイントになることは間違いありません。

 あるいは、すでに邦訳が出ている本を数十ページ訳して、従来の訳と自分の訳を比較して自分の訳のほうが優れているという自信があれば、それを出版社に売り込んで見るのもいいかも知れません。

 かくいう私が初めて出版翻訳の仕事をもらったときの話をしましょう。私は自分が気に入っている英語の本があったので、それを50ページていど訳し、それを出版社に送ったのです。

 すると、その本は翻訳書として出せないけれど、訳文が優れているので、別の本の翻訳を頼みたいという話が来たのです。

 1冊翻訳書を出版すれば、もう出版翻訳家です。その本をいろいろな出版社に送り、2冊目の翻訳書の仕事をもらえばいいのです。

 誰もが最初の1冊は苦労すると思います。しかし、夢をあきらめてはいけません。どこに、どのようなチャンスが転がっているかも知れないのです。「推薦状がなければダメだ」とか「賞でも取ってないとダメだ」と勝手に決めつけるのではなく、出版翻訳家になりたければ、自分で訳して出版社に送ってみるという手もあるのです。