まずは産業翻訳家を目指そう

  産業翻訳家になりたいと思っている人はもちろんですが、いずれは出版翻訳家になりたいと思っているも、まずは産業翻訳家になることが望ましいと思えます。

 理由はいくつかあります。

 一つは、いきなり出版翻訳家になろうとしても、現実問題として出版翻訳家には簡単になれないというのがあります。

 考えても見てください。1冊の翻訳書を出そうと思えば、出版社は莫大なお金をかけなければなりません。翻訳権取得のための費用、製本費用、流通費用、著者印税、訳者印税などなど。少なくとも数百万というお金がかかります。

 なのに、どこのどんな人が分からない人にいきなり1冊全部を任せるには相当な勇気がいります。

「私を信じてください。期限内にすばらしい翻訳をしてみせます」といったところで、信じてくれる人は、いません。

 ですから、翻訳の実績のない人に出版翻訳の仕事が回ってくることはほとんどないのです。

 仮に、運良く出版翻訳の仕事が回ってきたとしましょう。しかし、産業翻訳の経験もないうちに、いきなり出版翻訳の仕事が回って来たとしても、自分自身が苦しむことになります。

 それが第2の理由です。

 産業翻訳と出版翻訳とでは訳す分量が違います。

 産業翻訳の場合、数ページから数十ページの仕事がほとんどでしょう。

 しかし、1冊の本を訳す場合は、本にもよりますが200から300ページを訳すことになります。

 これはやってみなければ、その重圧はなかなか分かるものではありません。

 やがて期限との戦いが始まります。産業翻訳の経験もない人がいきなり大量の翻訳を引き受けてしまうと、「引き受けたのはいいけれど、こんなに大変な思いをする羽目になるとは思わなかった」ということになりかねないのです。


 これはけっして産業翻訳が出版翻訳よりレベルが低いという意味ではありません。ただ単に、出版翻訳家になりたい人も、いきなりなるのではなく、まずは産業翻訳家として何年かは経験を積んだほうがいいという意味です。