多言語と復言語

 ほとんどの大学では英語以外の外国語も学びますので、複数の外国語を学ぶ人は少なくありませんが、単に複数の外国語に堪能になったとしても、それは「多言語」とは言えても、かならずしも「複言語」とは言えないことがあります。

 では「多言語」と「複言語」の違いは何でしょうか。そして私たちはどちらを目指すべきでしょうか。

 「多言語主義」について「ヨーロッパ言語共通参照枠」には次のように書かれています。

 多言語主義とは、複数の言語を知っていること、あるいはある社会にさまざまな言語が共存していることである。

 これに対し複言語主義は単に複数の言語を知っているというだけではなく、「言語に固有の文化に気づき、他者の文化的アイディンティティと多様性を尊重し、よりよい相互理解に努めること」と言えます。

 「多言語」と「複言語」の違いが分かれば、そのいずれを目指すべきかは一目瞭然でしょう。当然、「複言語」を目指すべきなのです。というのも、ただ単に複数の外国語に堪能になっても、その言語の話者と諍いが絶えないようでは、何のために莫大な時間と労力をかけて外国語を学ぶのかが分からなくなってしまうからです。

 では「複言語な人」になるには、どのような勉強をすればいいのでしょうか。

 大きく分けて2種類の勉強が必要になります。1つは「複言語養成」、もう1つは「複言語主義教育」です。

 「複言語養成」とは、言語能力そのものを習得することです。これは従来の勉強方法で達成できることです。

 一方、「複言語主義教育」とは、その言語を学ぶ理由を考え、その言語に特有の文化を知り、その文化を尊重することで相互理解を促進することです。これは、「複言語養成」とは別途、意識的に行う必要があります。従来の勉強方法だけでは、やや足りなかった部分といえそうです。
 

 「複言語な人」になってこそ、世界市民として多文化共生に貢献できると言えるでしょう。せっかく莫大な時間と労力をかけて複数の外国語を学ぶのであれば「多言語な人」ではなく、「複言語な人」を目指しましょう。