●曖昧なまま仕事を受けるのは止めよう

 日本人は阿吽の呼吸で仕事をするのが美徳だと考えているのか、あるいは、お金のことを口に出すのははしたないと考えているのか、仕事の開始時に報酬(印税や原稿料)の話をなかなかしません。

 私はすでに何十社の出版社の編集者と付き合って来ましたから、それが良く分かるのです。
 
 出版社側もなかなか言い出さないし、おそらく文筆家のほうも聞き出さない人が多いのだと思います。

 文筆家のほうが聞かなければそのまま印税や原稿料のことは一切何も話さずに仕事が開始するということも多々あります。

 仕事がどうしても欲しい文筆家にとって、編集者の気分を害するようなことを言うのはリスクがあまりにも大きい。だから、「まあ、いくらなんでも、原稿料がタダってことはないだろう。出版して貰えるなら、それだけでもありがたいと思って、金額のことは聞くのは止めておこう」と思って、なかなか聞き出せないのですね。

 また、それとなく聞いても、はぐらかされることも多々あります。

「ウチは支払いはしっかりしているよ。何も心配いらないよ」

 まあ、こんなことを言ってはぐらかされるわけです。あるいは、

「今度、上の人の聞いておきます」

 といって、いつまで経っても返事がないとか。

 しかし、阿吽の呼吸で仕事を開始してトラブルと、まず大抵の場合、文筆家が泣かされる羽目になります。

 というのも、原稿料や印税は、仕事をすべて終わってから支払われるわけですから、その支払いの条件が変わるわけですから。

 私自身、原稿料のことを一切聞かずに仕事をしたことも何回かはあります。今から思い出してみれば、当時はお金に困っていて、少しであれ原稿料が貰えるのならそれでもいいか、と藁をもすがる感じでしから、編集者の気分を害するようなことは口に出せるわけはなかったのです。

 その結果、痛い目に遭うこともしばしばでした。決して思い出したくないような痛い目にも遭いました。

 だからこそ、このHPをご覧の方々には言っておきたいのです。仕事の条件は仕事を引き受ける前にきちんと確認する勇気を持とう、と。