●泣き寝入りは絶対するな

 私は専業の作家・翻訳家です。

 自分の好きなことをやって、それで食べて行っているという点では、羨ましいと思う人もいるでしょう。

 もちろん、いい点もあります。なにしろ、上司がいないのが一番いい(笑)。それに、していることといえば、好きなことだけ。一見、これほどいい職業もないと思うことでしょう。

 ただ、いい点ばかりではありません。いい点がある分、それ相応の悪い点もあるのです。
 
 では、悪い点は何でしょうか。それは、弱い立場ゆえに、なめられたまねをされるということです。

 なぜでしょうか。それは作家・翻訳家と出版社には歴然とした力の差があるからなのです。

 なにしろ、出版社には顧問弁護士がいます。社員に弁護士がいる出版社なら、弁護士に別途払う着手金などがいらないせいか、かなりなめたまねをしてきます。

 では、何をされるのか。簡単にいえば、約束を反故にされた上、開き直られるのです。

 具体的には、印税の支払時期を遅らせる、印税を削る、勝手に出版を中止する、他人の名前で本を出そうとするなど、さまざまです。

 私も作家・翻訳家になったばかりのころ、一度だけ泣き寝入りをしたことがありました。しかし、それは後々まで尾を引きました。

 いつまで経っても恨みが晴れないだけでなく、出版社側にも「こういうときは作家・翻訳家を泣かせておけばいいのだ」と学習させてしまったからです。

 そのときの反省からか、それ以降は、約束を反故にされたら、どんなに困難であっても徹底的に自己主張するようにしています。
 
 その結果、裁判になったこともあります。裁判では勝っても、弁護士費用のほうが高くなったこともあります。
 
 しかし、泣き寝入りをするより何倍も良かったと思っています。なぜなら、このようにして作家・翻訳家の一人ひとりが立ち上がらないと、作家・翻訳家はますますなめられたまねをされると思うからです。

 これから作家・翻訳家になろうとする人に言っておきたいと思います。それは、約束を反故にされたら、絶対に泣き寝入りはしてはならないということです。

 泣き寝入りすることは、本人のためにならないだけでなく、出版業界全体にとっても良くないことなのです。なぜなら、出版社に「こういうときは、作家・翻訳家は泣いてくれるんだ」ということを学習させてしまったら、ますます作家・翻訳家はなめられたまねをされるようになるからです。