あまりにも無責任な社長の応対
 
 192000円であるはずの月給が185000円しか支払われないまま、1日1日と過ぎて行きました。

 私はこのまま泣き寝入りしてはならないと決意しました。やはり当時の私にとって月7000円も削られたまま、それが今後も延々と続くのは耐えられなかったのです。
 
 考えても見て下さい。1年や2年だけなら我慢もできますが、最初の月給が削られたまま推移すると、その後の10年20年では莫大な差となってしまうのです。それを我慢することはできるわけがありません。

 いても経ってもいられなくなった私は、社長宛に速達扱いで手紙を送りました。この前の説明では納得がいかない、という内容です。

 ところがいつまで経っても返事が来ません。

 腹を立てた私は、さらにもう一度、速達扱いで手紙を送りました。

 ところがそれでもいつまで経っても返事が来ませんでした。

 かくて、私は社長宛に5回も6回も手紙を送りましたが、なしのつぶてでした。

 しかたがないので、次に本社に行く機会のときに、社長と直接会って話すしかないと思い、その旨も手紙で伝えておきました。

 さて、本社に行った日、直接社長に会って、私の手紙は読んでいただいているのか尋ねてみると、社長はこんなことを言い出しました。

「ああ、読んでいるよ。だけどね、前にも言ったように、一度決まった給料を変えることなんてできないんだよ。そんなことをしたら他の社員から不公平だって責められてしまって、どうにもならなくなるだろう。ここは君が諦めるしかないんだよ」

「それならそれで、なぜ、何も返事がないんですか? きちんと話し合いをするのが筋でしょう? なぜ、私と他の解決策を真摯に話し合おうとしないのですか? 他の解決策だってあると思いますけれど」

「いや、もう、あなたとの信頼関係は壊したいと思ったんだ。こうなった以上は、むしろ壊れたほうがいいと、ね。だって、壊れてしまったら、あなたがこの会社を辞めるしかないでしょう。そのほうが私にとっては都合がいいんだ」

 私は呆然としました。「信頼関係を壊したいと思った」とは、あまりにも無責任ではないでしょうか。本来なら、信頼関係が壊れそうであっても、なんとか話し合いで和解しようとするのが筋でしょう。

 私はその直後に、某相談センターに行き、相談に乗ってもらいました。相談員は優しそうな男性で、長々と私の話に耳を傾けてくれました。彼はこんなことを言っていました。

「ひどい社長ですね。そんな会社なら辞めたほうがいいでしょう。でも、あなたも自分の給料を口頭で聞くだけでなく、紙に書いてもらっておけば良かった。そうすればこんなトラブルになることもなかった」

 紙に書いてもらっておけば良かったというのは正論です。ただ、まさか口約束を後からひっくり返されるなんて思ってもいなかったので、紙に書いてもらうことなど考えも寄らなかったのです。

 結局、私はこの社長の無責任な応対がきっかけでその会社を辞めることにしました。

 苦い苦い経験でしたが、今では泣き寝入りをしなくて良かったと思っています。