企画本を自費出版専門の出版社に持ち込んでみると

 
ある出版社からの依頼で、翻訳書を出すことが正式決定していたのですが、その出版社の事情により出版直前になって出版中止になったことがあります。

 私のほうで用心に用心を重ねて、何度も出版中止になることはないのか事前に確認していても、こういうことってありうるのですよね。そして、残念ながら、出版社側が出版中止を決めてしまったら最後、もう翻訳者には出版社に出版させる術はないのです。

 さて、その出版社とどうなったかは、ここでは詳しく述べませんが、ボツになった翻訳書の原稿を他社に持ち込んでみた経験をお話ししましょう。

 せっかく出版直前にまで行った翻訳原稿があるわけですから、当然、なんとかして出版してほしいのは翻訳者の常でしょう。そのときの私の気持ちを喩えて言えば、出産直前までずっと自分の腹の中で育てた子供を突然、堕胎されたような気分でした。当然、他の出版社に持ち込みます。

 私は、わらをもすがる思いで、方々の出版社に持ち込んでみました。

 しかし、出版不況が叫ばれる今、なかなか首を縦に振ってくれるところはありません。

 出版社巡りに疲れてきた私は、それなら自費出版専門のB社に持ち込んでみようと考えました。B社は基本的には自費出版が中心ですが、企画出版も月に2本は必ず出していると同社のホームページで謳っています。もともと企画本であった私の原稿、しかもすでに出版直前にまで行っている原稿なら企画として通してもらえる、そう思ったのです。

 アポイントを取って、原稿を持参してみると、編集者は大喜びしてくれました。

「これならまず企画として通るでしょう。実は明日、役員と会う機会があるので、早速、明日、話してみますよ。すぐお返事できると思います」
 
 しかし、いつまで経っても何の連絡もありません。

 1ヶ月以上経った頃でしょうか、部長と自称する男性から電話がかかってきました。

「非常に素晴らしい本だ。だが、これを企画として出版するのは無理だ。自費出版だと1000部で230万になる」

 自費出版のオファーだったのです。もちろん、私は即、断りました。

 私の原稿はすでに出版直前にまで行っているのですから、編集作業費はかからないのです。なのに230万というのはあまりに高すぎる。ちょっと首を傾げたくなるような自費出版のオファーでした。