リーディングをタダでやらせた出版社(K社その2)
 
 
「翻訳書を出版したいので」といって、あたかも私の名で翻訳書を出すといわんばかりの誘い文句でリーディングをやらせておいて、あがってきた概要を見てお気に召さないとなると、そのままうやむやにして終わらしたK社が、それから1年以上経ったある日のこと、またまたリーディングを求めて来ました。

 「宅急便で2冊、英語の本を送るので、概要を送ってもらえないか。ちょっと急いでいるんだよね」

 こんなことを電話で依頼してきたのです。どうやらリーディングを無料でやって貰えるのが当たり前とでも考えているかのようでした。

 私はなんとなく釈然としませんでしが、このときもリーディング料のことは聞かずに引き受けてしまいました。というのも、やはり、次の仕事を入れたかったからです。自分で出版社に売り込むのはとても大変なのです。その点、出版社からリーディングを頼まれている以上は、それだけ期待されているということですから、出版される可能性はかなり高いのです。

 そういうわけで、そのときも、(まぁ、いいか、2冊くらいのリーディングの時間と労力が無駄にされたとしても、それくらいのことは我慢するしかないか)と自分を無理にでも納得させたのです。

 ところが私が2冊のリーディング作業をしている最中に、K社はまたまた2冊、追加でリーディングを求めて来ました。言い分は次のようなものでした。

「我が社としても、できるだけ良い本を出したいと思っている。だから、この前送った2冊と今回送った2冊の合計4冊の中から、一番いいものを選びたいと思っているんだ。悪いが、もう2冊、リーディングをやってもらえないか」

 これには私もカチンと来ました。4冊いっぺんにリーディングを頼んでおいて、その中から一番良い物を出したいと言っているのです。しかし、本当に1冊は出版することが確保されているのか? もし4冊もリーディング作業をやって、1冊も出なかったらどうなるのか? 以前のように、うやむやにして終わらせるのではないか? 

 リーディング作業といっても、4冊ともなると、相当の時間がかかります。斜め読みをするといっても英語の本ですから読むのに時間がかかるし、その概略をまとめるとなると、1冊あたり、どんなに早くても20時間はかかる。それが4冊だと80時間になる。それをタダにされるのは御免です。私は次のように答えました。

「4冊もやるとなると、相当時間と労力がかかるんですよ。それでもし、一冊も出さなかったら、私はどうなるんですか? 仮に御社のほうで1冊出すことを決めたとしても、翻訳権が他の出版社に取られたら、出せないんですよ。そうなったら、私はどうなるんですか?」

 私の剣幕に驚いたのか、相手はひるんでしまって、こんなことを言い出しました。

「あっ、それは私が言わなかったのが悪かったのだが、万が一、一冊も本を出さないとなったら、リーディング料はお支払いします」

 ただし、一冊当たりいくらなのかは言わないままです。私のほうから聞き出して、一冊当たり3万円払うと答えてくれたのでした。

 こうやって翻訳者のほうから強く出れば、出版社のほうでもリーディング料は出して貰えることがあります。リーディングといっても、貴重な時間を割いて仕事をするわけですから、きちんと貰うようにしましょうね。