リーディングをタダでやらせた出版社(K社その1)
 
 
ある日のこと、聞いたことのない出版社から電話がかかってきました。どうやら、つてを使って私の電話番号を聞いたようでした。要件は翻訳書を出したいので打ち合わせに来て欲しいとのこと。

 フリーの作家・翻訳家である以上、出版のオファーがあれば嬉しいものです。こうやって次々と仕事をしていけば実績も増えるし、最低限初版印税のお金も入る。重版にでもなればさらにお金が入る。だから出版のオファーほど嬉しいものはなかったのです。

 日時を決めて事務所に伺って話を聞いてみると、出したい本があるから、その本がどんな本かを事前にチェックしたいのでその本のリーディングをやって欲しいという話でした。

 このようなリーディングの依頼のしかたは、とても曖昧です。翻訳書を出すという前提でリーディングを頼んでいるのか、それとも出すかどうか分からないけれど、出すか出さないかを決断したいからリーディングを頼んでいるのか、どちらか分かりません。

 私としては仕事として依頼されていることを期待して、というか、正直なところ、仕事として依頼されているかどうか聞きづらかったこともあり、曖昧なままリーディングを引き受けてしまいました。まあ、仮にボツになったとしても、リーディングくらい、タダ働きにさせられても仕方ないか、そんな気の弱さがあったのですね。

 かくて私は、かれこれ20時間ていど費やしてリーディングをしました。原書をさささっと読んで、その概略をA4で4枚にまとめ、それを添付ファイルで、その出版社に送ったのです。

 ところが待てども暮らせど、何の音沙汰もありません。出版できないのなら出版できないで、そう教えてくれても良さそうなものです。もし教えてくれさえすれば、その本を他の出版社に持ちかけてみることもできるからです。

 その後、1ヶ月経っても、2ヶ月経っても、何も連絡がありませんでした。

 しびれを切らして電話で問い合わせてみると、

「出さないと決めたわけではない。ただ、もっといい本があればそちらにしたいので、迷っているところだ。もっと良い本があれば、紹介してほしい」

 という、わけの分からないことを言い出しました。出さないのなら出さないでハッキリ言ってくれればいいのに、出さないと言ったら、リーディング料を請求されると思ったのか、曖昧にして終わらせようとしたのです。

 その後も何ヶ月経っても、その出版社からは何の連絡もありませんでした。要するに、私はもてあそばれて、それで終わり、ということだったみたいです。ただ、だからといって、その時点でリーディング料を請求したとしても、また「出さないと決まったわけではない」といって、はぐらかされるのは目に見えています。

 なんとなく、後味の悪い終わり方をしたのでした。

 まあ、私もハッキリ聞かなかったのが悪いのですが。このようなことになりたくなかったら、リーディングを頼まれたときに、ハッキリ聞くべきなのですね。(今の私なら、ハッキリ聞きます)。