漫才みたいな対応で住宅ローンを断られた

 文筆家・翻訳家は、聞こえはいいかも知れませんが、よっぽどの売れっ子でもなければ、社会的信頼はありません。普段は気にすることもないと思いますが、ときに哀しい目に遭うこともあります。
 
 私の場合、それは住宅ローンの相談に行ったときに訪れました。田舎にいる母の様態が悪いため、同居を目的として東京にマンションを買おうと思っていたのです。私はミリオンセラーの『7つの習慣』の第二弾『7つの習慣 最優先事項』の翻訳を終えており、かなりの印税が入ってくる予定でした。ただ、出版社の事情で出版が遅れていたため、ローンを組んでマンションを買おうと思い、某銀行にローンの相談に行ったのです。

 対応してくれたのは50歳くらいの男性でした。
「あの〜、住宅ローンをお借りしたいのですが…」
「あなたのご職業は?」
「文筆家・翻訳家です」
「う〜ん、それで、年収はどの程度ですか?」
「年収は今ちょっと事情があってかなり少ないのです。でも、ちょっと話を聞いて貰いたいのです」
「いや、こっちも忙しいんだからね。いちいち、あなたの事情なんて聞いていられないんですよ。こっちが気にしているのはあなたの年収、ただそれだけです。だって審査は年収だけしか見ないから。年収が200万円を切っていたら、たとえどんな事情があっても貸すことはできません」
「200万は超えていると思いますけど…」
「確定申告はしていらっしゃいますか? 過去3年間のあなたの所得を見せて貰うことになりますけど。たとえ200万を超えていても、年収が少なければ、借りられる額も少なくなりますよ」
 いかにも見下した言い方でしたので、私はとっておきの切り札を出すことにしました。
「あのですね、私が今回お借りしようと思っているのは900万程度なんですね。で、『7つの習慣』って本はご存じでしょうか?」
「いや、知らない」
「今、100万部くらい出ている本です。で、実はですね、私がその本の第二弾を訳しまして、もうじき出る予定なのです。で、第一弾が100万部出ていますから、第二弾はどんなに少なく見積もっても8万部くらいは売れると思っているんですよ、そうしますとですね、その印税がですね」
「なに? 80万部? ふぇ、80万部? それで何千万も印税が入って来たの?」
 私は目の前にいる真面目そうな銀行員が口にしたことが信じられませんでした。こんな漫才みたいな対応があっていいはずはありません。
 しかし、ここでぶち切れたら借りられるものも借りられなくなってしまいます。私はおとなしくこう答えました。
「いえ、まだ出ていないんです」
「出ていないんだったら、言わないで下さい。そんな夢物語」
「いえ、夢物語ではないのです。もうすべて訳しているんです。あとは出るのを待つだけの状態なのです」
「あのね、あなたのようないい加減な人に貸していたら、こっちだって困るの。第一ね、そんなに売れる本だったら、その本が出てからその印税でマンションを買えばいいでしょう? ローンなんて借りる必要ないでしょう」
「ええ、それはそうなんですけど、今、母の様態が悪くてですね、できるだけ早く買いたいのです」
「とにかくあなたのような幻想を見ている人には貸せません。お引き取り下さい」

 よっぽどの売れっ子にでもならなければ、文筆家・翻訳家は、こういう風なことも起こり得ますので覚悟しておいたほうがいいかも知れませんね(苦笑)。

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