印税率を聞くのも一苦労(その1)

 
条件が曖昧なまま仕事を引き受けるのはトラブルの元です。できるだけ詳しく聞き出すことができればそれに超したことはありませんが、最低限、印税率は聞いておかなければなりません。

 もう一度言います。印税率は絶対に聞いておかなければなりません

 しかし、これがけっこう大変なことなのです。その一例をご紹介しましょう。

 ある日、某出版社から翻訳書の出版の話がありました。「条件が合えばお引き受けできる可能性があります」と答えたところ、担当者が拙宅まで打ち合わせに来ることになりました。当然、印税率も含め、条件は決めた上で来るのだと思っていました。

 当日、担当者がやってきて、翻訳を引き受けるということでおおむね話はまとまりかけましたが、いつまで経ってもその担当者は条件について切り出さないのです。条件がはっきりしないのに「引き受けます」とは言えません。

 しびれを切らした私はついにこう聞きました。

「ところで、印税は何パーセントになるのでしょうか?」

 当然、答えてもらえると思っていましたが、彼ははぐらかすように逆に私にこう聞いてきたのです。

「宮崎先生は、ほかの出版社では、だいたいどのくらいもらっていらっしゃるんですか?」

 編集者なら、だいたいの相場は知っているはずです。知っていて、さぐりを入れてきているのです。そんなことだいたいわかっているだろう! とつっこみを入れたくなりたくなりましが、そうしたい衝動を抑えながらこう答えました。

「6%から8%です」
 
すると彼は、自分たちの出版社から過去に出した翻訳書を示しながらこう言いました。

「ああ、そうですか。実はですね、この先生は有名な方なんですけれどね、ウチでは6%でやってもらったんですよ。それから、そうそう、この先生もね、6%だったんですよね」

 彼はこう言うことで暗に(ウチは6%しか出せないんですよ、それでもいいですか)とほのめかしているかのようでした。

 しかし、これでは私の印税が何パーセントかはわからずじまいです。私が聞きたいのは私の印税が何パーセントかなのです。

 私はストレートに聞きました。

「で、私は何パーセントなんですか?」

 すると彼は困ったような顔をしながらこう言いました。

「いや、そりゃ、宮崎先生のご希望にできるだけそった形にしたいと思っておりますよ」

 ん? 宮崎先生のご希望にできるだけそいたい?。でも私は希望などなにも言っていないのです。私の希望を知らないのに、できるだけ希望にそいたいってどういうことでしょうか?

「でも、そういう回答だと非常にあいまいなので、明確に何パーセントか聞かせていただけませんかね? あいまいなまま進めると後になってからトラブルになりかねませんので」

「宮崎先生は、そうやって印税、印税っておっしゃいますけどね、ウチはウチで一生懸命やっているんですよ。今は出版不況でしょ? だから私どもも一丸となって必死になってやっているんですよ。印税はできるだけのことはします。なんとか理解してもらえませんか?」

「でも、印税があいまいなまま仕事は引き受けることはできないんですよ」

「宮崎先生にとって、本を出すとはどういうことですか? この本を読者に読んでもらう、それが本を出す本当の意義ではないですか? そんなに印税が大切なんですか? 本当に大切なのは、この本を引き受けるかどうかではないですか?」

「私はなにも高い印税を要求しているのではありません。私は私の印税が何パーセントなのかを確認させていただきたいだけなのです。それでなければ仕事は始められません」

「わかりましたよ。とにかく、今ははっきりしたことは言えないので、持ち帰って検討させていただきますよ。決まったら、ご連絡さしあげます」

 翻訳の仕事を依頼してくるのなら、だいたいの条件を決めてくるのがふつうだと思うのですが、条件があいまいなまま話に来ているわけです。このように印税率を聞き出すことだけでも大変なことがあるのです。