●非日常の日々がエッセーのネタに

 私は30歳になろうかというときにイギリスに留学しました。

 なにしろイギリスに住むということは私にとって初めての経験でしたから、目にするものがすべて真新しいのです。
 
 毎日毎日が同じことの繰り返しの単調な毎日では、何か書こうと思っても、ネタが見つかりにくいと思います。

 しかし、イギリスで見ること聞くことは何もかも新鮮で、それがエッセーのネタになりました。

 何しろ、毎日のように、楽しいこと、驚いたこと、ショッキングだったこと、哀しいことが起こるのですから…。

 翻訳の業界誌にはイギリスに行った後も連載は続けていましたが、題材は英語や翻訳に関することに限ります。ですから、業界誌には、私の個人的出来事をエッセーにして書くのは趣旨が違います。

 しかし、ある日、イギリス在住の日本人向けの新聞が2紙あることに気づきました。そしてその新聞には投稿欄があったのです。

 これを私が見逃すわけはありません。私は、イギリスで経験したことを次々と投稿しました。

 採用される率は低かったけれど、私はエッセーを書くのが楽しくてしかたなくなったので、次々とエッセーを書きまくっていました。
 
 採用されると、1紙は10ポンド、もう1紙は15ポンドの小切手が貰えました。イギリスの物価は日本とくらべると2倍くらいの使いでがあるので、これはいい小遣い稼ぎになりました。

 エッセーを書いて楽しみ、賞金をもらって楽しみ、と二重の楽しみを味わえたわけです。

 思えば、本当にエッセーライティングの楽しさに目覚めたのはこのころで、将来は作家に楽しなれればいいなぁなんて夢見始めたのです。