印税引き下げ事件のその後2 

 
例の本がでてから数年後のことでした。なんと、その出版社から新たに翻訳の依頼が来たのです。もちろん、新たに代わった担当者からの依頼でした。
 その出版社には印税を引き下げられた過去がありますから、本来なら断りたいところですが、お金のない人間は弱いものです。当時の私には、断るほどの経済的余裕がなかったため、仕事を受けざるを得ませんでした。
 ただ、二度と印税を削られてたまるかという警戒心はありました。そこで、その担当者との打ち合わせのときに、前回6%という約束で仕事を始めたのに4%に削られたという話をして二度とそういうことがないように気をつけてほしいと釘をさしました。
 するとその担当者はこう言いました。
「約束していた印税を削るのは確かにルール違反ですね。そんなことは二度とないようにしますよ。そんなことしていいわけがありませんからね」
 全面的に彼の言葉を信じていたわけではありませんでしたが、その言葉を聞いて、一応、分かっていることは分かっているんだ、と少し安心しました。
 彼は条件を社内で詰めて、メールでお知らせすると言いました。
 数日後、彼からメールがきました。それには次のような条件が書かれていました。
「初版印税5%、重版印税6%、発行部数8000部、ただし発行部数は変更の可能性があります」
 まったく信じられない内容でした。というのも、以前、「初版と重版とで印税率を変えてはならないという社内規定があるから」という理由で、前の本の重版印税を4%に引き下げたはずの人間が、初版と重版とで異なる印税を提示してきているのです。彼の言うとおり、初版と重版の印税率を変えてはならないという社内規定があるのなら、初版が5%なら重版も5%、初版が6%なら重版も6%にならなければならないはずです。
 私はすぐさま彼に電話をして問いただしました。
「なぜ初版と重版とで印税がちがっているのですか? 以前、あなたから、初版と重版とでは印税を変えてはならないという社内規定があると聞いていましたが、そういう社内規定があったのではないですか?」
「え? 社内規定? 私、そんなこと言いましたっけ?」
 私はあっけにとらわれました。
「ええ、たしかにそう聞きましたよ。だって、だからこそ、私の前の翻訳書の重版の印税が4%のままにされたんですから」
「ええ? そうでしたっけ?」
「はい、間違いありません」
 彼にとっては、私がもらう印税など、しょせんは人ごとなのでしょう。だから覚えていないのです。しかし、私は自分の身に降りかかってくることですから当然しっかりと覚えています。
 私は強気に言いました。
「ですから初版も6%、重版も6%であればお受けできますが、そうでなければお受けできません」
 正直なところ、当時の私はお金に困っていたため、本当のことを言えば5%でも受けざるをえませんでした。しかし、そこは一種のかけです。こう強気に出ると、相手も初版から6%を払うという約束をしてくれたのです。
 こうして初版も重版も6%という条件が決まったのでした。私も多少は交渉がうまくなったということろでしょうか。