印税引き下げ事件のその後 

 
印税が6%から4%に引き下げられた顛末をお話ししまたが、実は、これには皮肉なエピソードがあります。
 「印税が引き下げられるのは初版印税だけで重版からは6%のまま」という約束でしたが、私は正直なところ、その本は重版になるとは思っていませんでした。他社では初版は7000部くらいしか刷らず、それで初版止まりのままになる場合が多いのです。ですから初版で15000部も刷ったら、もう重版などなることはないだろうと思ったのです。
 というより、もっと正直に言えば、「売れてくれなくてもいい」と思っていました。売れれば売れるほどその出版社を儲けさせることになるからです。あんなひどいことをする出版社など儲けさせたまるかという気持ちでした。
 数週間後、担当編集者から「非常によく売れています」というファックスが流れてきましたが、嬉しいはずはありませんでした。そのファックスを見て、「そんなに売れているんなら印税をきちんと払ったらどうなんだ!」と言い返してやりたくなりました。そんな感じでしたから、ファックスをもらっても特に返事をするまでもなく放置したままにしていました。
 数ヶ月経った頃でした。担当編集者から一枚のはがきが届きました。そのはかぎには退職したと書かれてありました。引継の担当者がだれになるか書かれていなかったところをみると、本人もよほど悔しい思いをして退職したのかもしれません。
 はがきには本人の住所も書かれてありましたが、私のほうから連絡をとることはしませんでした。私は、この苦い経験はこれで終わりなのだと思っていたのです。
 それから数ヶ月後のことです。私はその間に引っ越しをしたのですが、その出版社には新住所を教えていませんでしたから、その出版社から連絡が来るとは思っていませんでした。
 ところが、ある日、郵便受けをあけてみると古い住所に郵送された郵便物が転送されてきていました。中身を見てみると、その本の重版の知らせでした。「何度電話しても通じなかったので手紙で連絡します」という内容の引継になった担当者からの手紙でした。
 売れてほしいと思う本はたいして売れず、売れてくれないでほしいと思う本が売れるとは皮肉なことです。しかし、重版になるのなら印税が入ってくることになります。それだけはありがたい話でした。
 しかし、その手紙をよく読んでみると、重版の印税が4%で計算されていました。私は、引継がされないままだったんだなと思いながら、さっそく新しく担当者になった人に電話をかけ、当時の担当者に「重版からは6%という約束だった」と伝えました。すると、相手は一枚上手です。こんなことを言って却下してきました。
「どうやら以前の担当者が間違ったことを伝えていたようですね。ウチには初版と重版の印税率は同じにしなければならないという社内規定があるんですよ。だから初版が4%なら重版も4%です。重版から6%なんてことはできません。しかも、その約束って口約束でしょ? 何か証拠でもありますか?」
 口約束にすぎない以上、相手のなすがままにならざるを得ませんでした。当時の私はお金に困っていたこともあり、4%であれ払ってもらったほうが良かったという事情もあり、それ以上は文句は言えませんでした。というのも「それなら条件があわないので重版は認めません」と文句を言えば、重版部分の印税がもらえなくなるかもしれないのです。私はしぶしぶ4%という条件を飲みました。
 皮肉にも、その本はさらに何度か重版になりました。最初に契約書を交わしておくのと交わしておかないのとでは、とんでもない差がでてしまった格好の例です。今の私なら絶対にしないというほどのヘマをやらかした事件でした。